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企業の科学技術に対する関わり方について

企業を常に発展させ続けてきたのはイノベーションである。この『イノベーション』という言葉はオーストリアシュムペーター(1983−1950)が定義した言葉で、「現存のものに何か新しい物を取り入れる、現存のものを変える」技術革新と「まったく新しい物を生み出す」創新という意味がある。
 シュムペーターの「経済発展の理論」(1912)では『資本主義経済は、起業者が生産手段の新結合を遂行し経済循環の軸を飛躍的に変化させることにより(つまりイノベーションにより)発展する。起業者は経済循環における生産諸力の結合を変更して新結合を遂行する。この新結合には、
1.新しい財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産、
2.新しい生産方法の導入、
3.新しい販路の開拓、
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、
5.新しい組織の実現、
の五つの場合が存在する。この新結合を実現していくのが経済発展の核心であり、起業者の活動こそ発展現象の根本要因である。この新結合がイノベーションである。』としている。
 現在ではイノベーションの定義を、現在の産業構造に合わせて
1.新しい製品やサービスの創出、
2.既存の製品やサービスを生産するための新しい産技術、
3.それらを顧客に届け、保守や修理、サポートを提供する新しい仕組み、
4.組織・企業間システム
5.ビジネスのシステム、
6.制度の革新などを含める。
と変わっているが、元となる技術革新と創造という部分は変わっておらず、企業は昔も今もイノベーションを求め続けている。

イノベーションに大切な物が科学技術である。20世紀前半、デュポン社やAT&Tの成功により、各企業がイノベーションのため、独自に基礎研究を行うようになった。これはイノベーションの技術圧力型と呼ばれる物で、
   研究→開発→生産→販売→市場 
という流れで「まず研究、技術ありき」のイノベーションの形である。しかし、科学技術だけでは企業は利益を上げることはできない。科学技術を元にした商品が、市場に受け入れられて経済的成果を実現したときイノベーションとなるため、市場の声は無視できないので、市場の声を元に開発や研究をする
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研究→開発→生産→販売→市場
市場牽引型が一般的である。

MBA経営学博士)(Master of Business Administration)と比較されるのがMOT(技術経営)(Management of Technology)で、MOTは企業にとって技術をどう生かしていくかだ。MOTは研究開発から製品化・製造というプロセスと、販売やマーケティング、資金調達、人材育成などのノウハウを組み合わせていくものだ。それだけでなく、技術を守るための特許戦略や、他企業とのコラボレーションなども考えていく。最近ではソニーサムスンがお互いの特許を使用できるクロスライセンス契約を結んだ。多くの企業では、技術者は経営には関心が無い状態にある。そういった技術者に企業経営を学んでもらい、また経営者には技術を学んでもらうことで企業経営の飛躍的進歩を狙うのがMOTだ。日本では理系と文系にくっきり分けていた「テクノロジー」と「マネジメント」を融合させ、それらを学ぶことで事業や経営、技術の革新を推進できる人材になれるという考え方がMOTだ。技術を経営資源として戦略的に活用するために、「テクノロジー」と「マネジメント」の双方に精通した人材が必要だ。
MOTを用いて技術に特化した形として、知的財産権(特許)ビジネスだけを行ったり、工場を持たないで生産をすべて外注するファブレス企業という企業形態がある。資金が固定化せず、リスクが低減でき、スピード経営が容易であるため、IT関連の製品サイクルが短い商品に適している。
ファブレス企業に代表されるように、今まで1つの企業内で行ってきたことの一部門のみを引き受けたり、アウトソーシングしたりしてコアコンピタンスに集中する、企業のモジュール化がおきている。
これは技術に関しても同様で、すべて自社で開発するのではなく、技術をお金で買ったり、M&Aによって技術やノウハウを会社ごと買うという事が行われる事が多くなってきた。 これらはスピードが重要なIT関連の企業で良く行われており、自社で新しく研究を始めるより、お金で解決できるものはしてしまった方が早いからだ。
また、日本での新しい動きとしてTLO(技術移転機関)というのがあり。大学等の研究成果を産業・社会へ還元することを目的としている。いわゆる産・学の連携で、学生は最終的な商品を意識しながら研究することを学べて、企業側は開発コストを抑え、学生ならではの発想を得ることができる。

自社で研究から販売までを行う昔ながらの企業はまだまだ多いが、上に挙げたような様々な企業形態が出てきた。これらのうちどういったものが主流になっていくのかはわからないが、シュムペーターによると「イノベーションによる創造的破壊こそが資本主義の本質である」ため、資本主義である限り、イノベーションを起こせない企業形態は自然淘汰されていくだろう。
企業にとって科学技術は必ずしも自分の企業で研究する物ではなく、イノベーションのために必要な科学技術をどこから調達するかという事に変わってきている。